明日なき狼達
 寿町の手前で車を乗り棄てると、ナイフを手にしたまま街中を徘徊した。

 ドヤにも泊まれないあぶれ者や、焦点の定まらない目付きのポン中。

 六十を過ぎたホームレス相手の娼婦。

 郷田の異様な姿を見ても彼らは意に介していない。

 街の中程にある博打場の見張り役の男が、郷田を見て座っていた椅子から転げ落ちた。

 暫く行くと、路地という路地からチンピラ風の男達が現れて来た。

 男達の手には、包丁や短刀が光っている。

 無言のままじっと様子を窺う男達。

 郷田は彼らを無視しながらそのまま歩いて行く。

 一人の男が身を乗り出そうとしたが、郷田の全身から発せられる殺気に、動きが止まった。

 道の中をそのまま歩いて行く郷田に、彼らは結局何も手を出せずに道の両脇に分かれた。次の道を曲がると、見知った顔の男達が居た。

 滝沢の手の者達が、一軒の古い旅館を取り囲んでいた。

「郷田さん……」

 無言で人垣を分け、郷田は建物の陰に隠れている男の腰から拳銃を抜き取った。

「あっ、それは自分のです」

「借りる……」

 セーフティーレバーを外し、遊底をスライドさせて薬室に弾を送り込んだ。

「身を乗り出すと撃って来るかも知れません。相手は取り囲まれてるとはまだ気付いてませんから、どうか物陰に」

 警備主任の言葉など耳に入らないかのように、郷田は道の真ん中でその建物をじっと見つめた。

 傍らの警備主任に突然郷田は、

「何故一気に攻めない?」

「中の様子を調べてます。相手の居る位置を把握した上で攻め込む予定です」

「馬鹿な……」

「え?」

「時間の無駄だ。正面の出入口と裏の勝手口から同時に突入すれば、三分で片は着く筈だ」

「しかし、相手にも武器がある以上、犠牲を出さずにと考えるのが私の立場ですから」

その言葉に、郷田は蔑むような眼差しをくれた。

「ならば私一人で片を着けて来る……」

 そう言って、郷田は一旦後ろに下がり、別な路地から迂回するかのようにして、裏口を捜しに行った。路地伝いに裏口に回り、丁度建物の真裏に来た。



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