明日なき狼達
「浅井……」

澤村が辺りを憚るように声を掛けて来た。

「何だ?」

「おかしくないか」

「ん?」

「余りに静か過ぎないか」

「……」

「頼った連中は、間違い無く信用出来る奴らか?」

「判った、ちょっと様子を見て来るよ」

「浅井、いざとなったら……」

「心配すんな。まさか裏切ったりするような奴じゃねえと思うから。万が一の時は、きっちり筋を通してやるから」

 浅井が階段を降りて行く後ろ姿をじっと見ながら、澤村は一抹の不安を隠し切れないでいた。

 浅井がそっと玄関の扉を開け、外を窺うと、居る筈の地元のヤクザ達の姿が一人も見えなかった。普段のこの街ならば、道に横たわっていても良さそうなホームレスや、酔っ払いの姿も見えない。確かに静か過ぎる。

 この不自然な静けさ……

 澤村を助ける為に乗り込んだ廃墟の時に似ている。

 何かが動いた。

 浅井の六感が赤信号を激しく点滅させた。階段を駆け登り、澤村の元に戻って来るなり、

「すぐにここをずらからろう」

 と言った。

 澤村は別段驚く訳でもなく、浅井の言葉を聞くと同時に立ち上がり、隣の部屋に居た松山と神谷に、目で逃げる事を訴えた。

 二人は、澤村の目の動きだけで全てを悟った。

 児玉を担ごうとする二人を浅井も手伝う。

 先に澤村が階段を降りて、裏口に回る。建物の中には誰も居ない。

 俺達は売られた……

 台所に包丁があるのを見ると、澤村はそれを手にした。

 たいした役には立たねえだろうなぁ……

 錆びた包丁を右手にしっかりと握り、勝手口の戸をそっと開けた。裏路地の左右を確認しようとした時、やな予感が走った。

 こっちはヤバイ……

 振り返るなり、

「表だ、裏は辞めた方が良さそうだ」

 その言葉に皆は従うようにして正面の玄関へと向かった。

「待て、二階から隣の建物へ移れないか?」

「俺が見て来る」

 神谷が二階へ駆け登り、すぐに戻って来た。

「大丈夫だ。隣の物干し場に逃げれる」

 皆、神谷の後に続いた。

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