明日なき狼達

最後の一弾

 神奈川県警本部に緊急事態の連絡が入った時には、既に寿町の暴動騒ぎは、周辺の街をも巻き込んだ大規模なものになっていた。各警察署に緊配(きんぱい…緊急配備)の無線が乱れ飛ぶように入って来ている。

「暴動じゃなくて映画の撮影をやってるとの事前連絡が入っているが」

(バカヤローッ!何が映画撮影だ!マジで死人が何人も出てんだぞっ!県警本部の馬鹿共を纏めて叩き起こせっ!)

 無線越しに怒鳴る現場の警察官達。

 県警本部長の元にその連絡が届いた時、本部長は自分の警察官僚としての生涯がこれで終わったと感じた。

 直ぐさま滝沢秋明に電話を入れた。

「滝沢さんっ、どういう事ですか!話しと違うじゃありませんか!」

(暴動になったのは元々の住民達がそうしてるんじゃろ。そうなった原因は以前からのあの地域に対しての警察側の警備が……)

「滝沢さんっ!今、そんな事を此処でグダグダと話す事では無いでしょう。こうなったら、幾ら貴方でも責任を取って貰いますよ」

(ほう、一県警本部長程度がこの私に責任取れと?
 どう取らされるのか楽しみですな)

「あんまり警察を舐めて掛からない方がいいですよっ!」

 そう言い棄てて受話器を切った。

 県警本部長は暫く考え、再び受話器を取り、

「本庁に繋いでくれ……」

 と言った。

 10分後、警視庁から神奈川県警に対し、全機動隊の出動を命じた。

 浅間山荘連合赤軍事件や、オウム以来の厳戒体制が敷かれた。





(各署に告ぐ、暴動は既に関内から曙町、伊勢崎町方面に迄及んでいる。全署員を動員し、現時点で路上に居る者は全て暴動参加者と見なし、身柄を確保せよ。尚、全署員防弾チョッキの着用及び、拳銃の携行を義務付ける。拳銃の使用に関しては、警告等の手続きをせずとも良い。抵抗の意思を見せた者には、許可を待たずの拳銃使用を許可す)

 横浜周辺の各署にこのような署内放送が響き渡った。

 各署の警察官達は、全身に緊張感を漲らせ、慌ただしく警察車輌に乗り込んで行った。





 混乱のさなか、松山達は乗り棄てられた車で東京を目指していた。

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