明日なき狼達

結ばれぬ者……

「梶誠一郎さん」

「はい」

「では、こちらの面会室へ」

 新しくなった東京拘置所の面会室は、以前とは違って地下になった。

 収容人数の増加に伴い、改装工事が始まったのは、平成11年頃からで、漸く殆どの施設が完成した。一部の古い建物は、博物館にでもするらしく、残してある。

 女性刑務官に促されて、白川静子が入って来た。

 梶の顔を見るなり、ぴょこんと頭を下げた。

 変わってないな……

 二十七年前、初めて会った時から、彼女のお辞儀の仕方はそのままだ。

「やあ」

「お久しぶりですね」

「先月はちょっと忙しかったものだから」

「無理なさらなくても……」

「そんな事を君が心配する事は無いよ。ちゃんと食事はしてるかい?少し痩せたかな?」

「運動不足だから、少し食べるの控えてるんです」

「まあ、余り過度なダイエットは身体に良くないから……。
 そうだ、今日はこの前頼まれていた本を持って来たよ」

「ありがとうございます。何時も済みません。前に差し入れして頂いた『塩狩峠』、今三度目なんです……」

 俯きながら、自分の髪を時折触りながら喋る仕草も変わっていない。

 白川静子の弁護人を引き受けたのは、梶が弁護士になって二年目の時だった。当時は梶一人では無く、他に国選弁護士が二人ついていた。

 二人共、名の売れた弁護士で、当初はかなり精力的に弁護活動をしていたが、一審の判決で、彼女に死刑判決が下ると、二人共そのまま控訴審には加わらなかった。尤も、基本的には控訴審での国選弁護人は、別な弁護士に打診される事になっている。

 被告人が一審の国選弁護人を継続して頼もうとすれば、基本的にはその時点で私選扱いになるからだ。が、時には一審の国選弁護人が自らの意志で控訴審も引き受ける事がある。その場合は、大概援護団体が資金援助をする。それでも額はたいした事はない。

 一審の時の二人は、多分に自分のキャリアをアピールする為に彼女の弁護を引き受けたようなきらいがあった。

 夫とその愛人、更には愛人との間に出来た幼子迄殺害した殺人犯という、言わばセンセーショナルな弁護に限って、名誉を欲する弁護士が現れて来る。


< 25 / 202 >

この作品をシェア

pagetop