明日なき狼達
『タキザワ経済研究所ニシダビューティクリニックの債権肩代わりか?』

 夕刊の社会面に大きくトップ記事として載っていたのを見て、松山はぽつりと、

「滝沢秋明か……」

 と呟いた。

「カリスマ的日本の最後の黒幕ですな」

 児玉の言葉に、松山は軽く頷き、

「怪物みたいな方です……」

 と言った。

「そちらの世界でもやはり……」

 児玉の問いに松山は、

「自分はとても直にお話しの出来る立場にはいませんでしたから、ただ噂しか耳にしてませんが、日本中のヤクザを本気で一本にまとめようと考えていた時期があったようでして……。
 現実には無理な話しでしたが……ただ、ヤクザだって所詮は力の強い者にまかれろ的な考えはあります。弱きを助け、強きをくじくなんて台詞は、有り得ません。国家権力の中枢にまで力を及ぼせる人間は、間違い無く滝沢秋明のみでしょう」

「私ら一般人には窺い知る事の出来ない人物……何でしょうね」

「はい……」

「私が自衛隊に居た頃、頻繁に名前は幕僚幹部から耳にしたのを記憶してましてな。次期主力戦闘機の導入に際しては勿論の事、防衛産業とも太いパイプを持っておられた……」

「ヤクザから国防迄……ですか」

「ところで松山さん、以前お話ししたビルの清掃会社の件ですが、明日でも先方とお会いしてみますか?」

 それは、児玉が自衛隊退職後に一時期役員を勤めていたビルの清掃管理会社の事であった。

 松山の再就職について、児玉なりにいろいろと心当たりを探した結果、一番無理を聞いてくれそうな会社という事で、渋谷にあるその会社を世話する話しをしていた。

「現在の社長は、私が自衛隊に居た頃の部下でしたから、何の気兼ねもいらない間柄です」

 数日前からその話しを持ち掛けていたが、松山は、思いの外乗り気では無かった。その理由をなかなか話したがらなかったが、松山は意を決したかのようにその理由を語り始めた。

「実は、私が刺した相手の組というのが、今も渋谷にありまして……」

「……」

「勿論、私自身は既にこうして堅気になっていますし、自分の組も、また自分に命じた組自体も現在は無くなってしまいましたから特に問題は無いと思うのですが、この事で後々ご迷惑をお掛けしても……」
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