明日なき狼達

依頼

「おはようございます」

 事務をやっている妹尾恵子が挨拶をして来た。

 見渡すと、事務所には所長の天海だけだ。他の調査員達は、仕事で出払っているのだろう。

「おはよう」

 天海は、来客用のソファでしかめっ面をしながら書類を見ていた。

 梶は天海の向かい側に座り、声を掛けた。

「依頼かい?」

「そうなんだが……」

「乗り気じゃなさそうだね」

「条件は悪く無いんだがね……」

 元々そう口数が多い方では無く、話す時も慎重に言葉を選ぶタイプの天海であったが、今日はより一層の感じがする。

「失踪か何かかい?」

「まあね」

 と言って、天海は新聞を梶に差し出した。

 社会面のトップは、原油の値上げに伴うガソリンの価格がどうのこうのと出ていた。

 天海が示した記事を見ると、下の二段に割と大きめに

『バハマで発見の邦人遺体、青山さんと断定』

 と見出しがあった。

「ニシダビューティクリニックの元社長室長で、今回の倒産に際しては、会社の資産を青山が殆ど管理し、資産ごと失踪してたんだ……」

「ニシダ、加代さん……」

「ん?加代さんて、社長の西田加代子を知ってんの?」

「ああ」

「妙なとこに妙な縁があるもんだな。新聞を読むと、社長室長だった青山は、エステ会員の会費やら売上なんかを海外の不動産投資や証券取引に回してたらしいんだ。それがある日突然、それら海外資産や国内銀行の資産を掻っ攫ってドロン…警察も特別背任横領の嫌疑で行方を探してた所、バハマに最後は居たという情報迄は得られた。足取りはそこからぷっつり。
 警視庁はインターポールを通じて国際手配をする事迄考えてたようだ。バハマで泊まっていたホテルの関係者からの証言で、空港に向かうタクシーに乗った所迄は何とか判った……。
 それから一ヶ月以上経ってもようとして消息が判らなかったのが、一週間前に丸焼けになった車の中から骨だけになった遺体が見つかったんだ。殆ど灰に近い状態だったらしいが、頭部の骨は残っていたらしく、歯の治療痕とDNA鑑定の結果……」

「本人だと」

「ああ」

「依頼はこの事に関係してるのか?」

「依頼者は青山の祖母なんだ」
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