明日なき狼達
「最近、余り会社の方へは行ってないようですね……」

 児玉の言葉に、松山は軽く頷いた。

「申し訳ありません」

「いや、なにも謝る事は無い。ただ、毎日出掛けてはいるようですが、会社からは暫く休んでますと聞いたもので。
 貴方には貴方の進む道があるから、それは別に構いませんし、私の場合は要らぬお節介が……」

「いえ、これだけ親切にして頂きながら、何のご相談もしなかった自分に非はあります」

「何かあったようですね?」

「背負った業は、死ぬ迄消えない……そんなところです」

「……」

 児玉は話しを変えようとし、

「さて、ならば今日はのんびりその辺を散策でもしませんか?駅の近くに新しく出来た蕎麦屋が大層評判らしいですよ」

 児玉なりの気遣いを痛い程に感じ、松山は何度も頭を下げるばかりであった。

 家の玄関を出て少し歩くと、後ろの方から松山の名前を呼ぶ声がした。振り返ると、野島が小走りにやって来た。松山は驚いた。

 あれ以来、一、二度電話でのやり取りはあったが、松山の方に気まずさがあって会うのを避けていた。やっと使い慣れたケータイの番号は教えたが、住んでる場所迄は教えていない。

「野島さん……」

 児玉は、二人から少し離れるようにして眺めている。

「これ、これを……」

 野島が差し出したのは新聞であった。

 示された記事を見ると、最近倒産した有名エステティックサロンの社員の死亡についての事が書かれていた。

「これが何か……」

「滝沢秋明……」

「?」

「殺された青山は、滝沢がタニマチになっていた男です。倒産したニシダビューティクリニックを買い取ったのは、タキザワ経済研究所、つまり、滝沢秋明。奴が、奴が絡んでるんです」

 児玉は、話しの内容を耳にし、取り敢えず家に引き戻す方が良いと考えた。

「外では何ですから、中で話しをしませんか?」

 野島は慌てて児玉に挨拶をし、突然の非礼を詫びた。

 松山はじっと黙っている。

 応接間に二人を通し、児玉は珈琲を入れる為に、台所で用意をした。

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