明日なき狼達
「ここには救急セットがありますか?」

「普通の置き薬程度しかありませんが……」

「ならば、今から言う物を至急揃えて下さい。包帯は沢山あった方がいいし、晒しを一反ばかり、後、焼酎でもいいし、ジンかウォッカのような度数の強い酒を。それと、ミネラルウォーターを沢山。針と木綿糸も。それと、大きなカッターナイフ。いや、皆さんヤクザをなさってるのなら、短刀の一本位は持ってらっしゃるでしょ?」

 児玉の言い方に、澤村と浅井は苦笑いを浮かべた。

「おい、ケンジ、ヤッパ持ってたら出せ」

 浅井からケンジと呼ばれた若者が、黒いスーツの内ポケットから白鞘の短刀を出した。

「今時、こんな物を持ち歩いてるヤクザが居るんだねェ……職質されたら一発でアウトじゃないの」

「いえ、普段は持ち歩きません。オヤジが緊急事態だからって言ったものですから」

 加代子の言葉に若者は頭を掻きながら答えた。

「ならば、拳銃とかもありますか?」

 そう児玉が言うと、

「これを」

 と言って澤村がリボルバー式の拳銃をズボンの腰辺りから抜き出した。

「あと、薬局で抗生物質と痛み止めの薬を買って来て下さい」

 浅井に促されて、若者が数人走るようにして部屋を出て行った。

 程無くして買い物袋を抱えた若者達が戻って来た。

 先ず最初に、鍋にミネラルウォーターを入れ、沸かし始めた。針と短刀、それと晒しと木綿糸を大鍋で煮沸消毒し始めた。

 児玉は買い物袋の中からウォッカの瓶を取り出し、栓を開けた。

「神谷さん、麻酔が無いからこれを飲んでくれませんか」

 頷いた神谷は、ウォッカをラッパ飲みし始めた。

「消毒用に使うのかと思ったけど……」

「加代さん、足首を抑えて貰いたいんですが」

「判った」

 澤村や松山達が、児玉の指示で、煮沸消毒された短刀や晒し等を持って来た。

「何か口に……」

 児玉がそう言うと、神谷は自分で枕の端をくわえた。

「行きますよ……」

 傷口をミネラルウォーターでよく洗い、短刀で十文字に切り開いた。

 激痛にのけ反る神谷を皆が抑え付けた。肉をえぐり、弾丸を探す。刃先に何か当たる感触があったが、それは骨だった。

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