セク・コン~重信くんの片想い~

「そこ座れ!!」
 アオイに言われて、重信は言われるがままに店のカウンターにのっそりと腰を下ろした。
「店長、厨房借りるぞ」
「あ、ああ」
 カウンターの下に入れてあったエプロンを、慣れた手つきで着用すると、アオイが厨房の中に姿を消した。
「あっ、店長。そいつ、逃げねぇように見張っといてよ」
 ひょっこり顔だけ出すと、ちゃっかりアオイは忠告まで付け足した。
 しばらくすると、中から油を敷く音と、いい匂いが漂い始めた。

「えっと、萩本君だっけ?」
 カウンターで、向かい合うような形になってしまった優木さんは、気遣うように重信に話し掛けてきた。
「あ、はい」
 気まずくなって、重信は頭を掻く。
「アオイちゃんとケンカでもしたの?」
 厨房の方をちらっと見やりながら、優木さんは苦笑いを浮かべる。
「いえ、ケンカって訳じゃないんですけど」
確かにケンカではない。今回は一方的に重信がアオイを避け、怒らせただけなのだから。
「アオイちゃん怒らせたら怖いよー?? 萩本君、覚悟決めた方がいいね」
 重信は、優木さんの言葉に顔を顰めた。
(アオイは怒って当然だ。俺は甘んじてアオイの制裁を受けよう。それで、その後はきっぱり関係を切るんだ)
 しばらく厨房に篭ってしまったアオイを、重信は今度こそ逃げずに静かに待った。
 その間、優木さんが何度か暖かい紅茶を出してくれて、口下手な重信の代わりに他愛もない話を振ってくれたりしていた。

「食え!!」
 突然、重信の目の前にどんと置かれた大皿。
 ほかほかと立ちのぼる湯気。それは、どう見ても三~四人前はありそうな巨大オムライスだった。
「これ全部か?」
 見ただけでお腹がいっぱいになりそうなオムライスの小高い山に、重信は目を丸くする。
「アオイ様の特性オムライスだぞ。食えることを光栄に思え」
 腕組みして、抗えない威圧的な態度で見下ろしてくるアオイ。
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