セク・コン~重信くんの片想い~

「悪い、ハギ! 待たせちゃって!」
 慌てて駆け寄ってきた恵太に、
「あ、いや」
と答えながら、重信はさり気なく頭から雑念を振り払った。
(だから違うだろ! 俺は恵太一筋の筈だ!)
「ん? どうかした?」
 重信の心の中の、必死の格闘を知らない恵太は、首を傾げながら重信の顔を訝しげに見つめている。
(そうだ、俺は恵太のこの優しいところを好きになったんだ)
 重信はなんとか自分を納得させようと、心の中でお経のようにぶつぶつとそれを繰り返した。
 そんな重信を不思議そうに見つめていた恵太だったが、直後とんでもないことを叫んだ。
「アオイ! こないだ貸した学食代返せよー」
 既に廊下に出て、数メートル先を歩いていたアオイが、そのせいで大きく振り返った。
 重信の心臓が大きく飛び跳ねる。
「あっ、悪い! すっかり忘れてた」
 くるっと向き直り、持っていたサイフを探りながらドアの前に戻ってきたアオイ。そのおかげで、重信のすぐ脇に彼が立つという信じられない状況に陥る。
(えっ、えっ、えーーーーーー!?)
 ガチガチに固まってしまい、アオイの方に視線をやることもできず、重信は強張った表情のまま恵太の顔を見続けるしかなかった。

「あー……。返したい気持ちは山々なんだけど、今札しか無いんだよな。恵太、釣り銭持ってる?」
まだ声変わりをしていない中性的な声。ほんのり香るのはシャンプーの匂いだろうか?
「俺も小銭ないんだよなー」
 恵太が困ったように頭をぽりぽりと掻いた。
 それを聞いて、しばらく何か考え込んでいたアオイだったが、信じられないことを言いだした。
「じゃあ、一緒にメシ食わね? オレも丁度学食行くとこだし、支払い一緒にすりゃいいだろ」
 恵太が重信の方をちらりと見て、許可を待っているようだったから、取り敢えず緊張した面持ちでこくりと頷いておいた。

(えっ、えーーーーっ!?)

 こうして、どういう訳か、この奇妙な組み合わせで昼食を共にすることが決まってしまった。




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