セク・コン~重信くんの片想い~
 なぜこんなことを口走ってしまったのか、重信は一瞬訳が分からなかった。が、原因は考えられる。この前、永遠子が言っていた言葉が、重信に重く圧し掛かっていたからだ。
 アオイの家の事情も、アオイの夢も、アオイの今までの苦労も、永遠子はその全てを知っていると重信に言った。
 けれど、重信の方はその全てを知らなかった。最近になって、やっと家の事情をほんの少し知った程度だ。
「んー、オレの夢? なんだよ、いきなり」
 急に真剣な顔になった重信を、アオイはまじまじと見つめた。
「よく考えたら、俺、アオイのことあんまり知らないことに気付いたから」
 普段自分からは話さない重信が、こんなことを言い出したことに、アオイは少し驚いていた。けれど、そんな重信がそう口に出したということは、きっと物凄く自身の中で色々考えた末のことだろうというのはアオイにも分かった。
「オレの夢は、バイクトライアルで世界的に有名な選手になること」
 真っ直ぐな瞳。どこまでも淀みない澄んだその目は、ずっと大きな世界を目指していた。
「そっか。アオイはかっこいいな」
 重信はワシワシとアオイの頭を撫でて小さく微笑んだ。
「そ、そういうハギの方こそどうなんだよ!?」
 アオイが頭を撫でつける重信の手を摑まえたところで、
「お疲れ様でしたー」
と、観覧車の扉が開かれた。
「ああ、もう着いたのか……」
 二人はどういう訳か、かあっとなって、視線を逸らしながらさっさと観覧車を後にした。
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