夢の欠片
「ごめんねー、由梨ちゃん。あいつだらしないから」


「いえいえ。微笑ましいじゃないですか」


羚弥が急いで出ていった後、由梨と真弓は朝食を食べながら話していた。


「どこが!?」


「うーん、例えば……子供が人のスカートをめくって怒られるみたいな、そんな感じですよ。後で笑い話にできるような」


「『後で』になるのは未来であって、今は経験している『最中』だからね……困ったもんだよ。小学生でも自分で起きるくらいできるわ」


「フフ、そうですね。本来困るのは真弓さんじゃないんですけどね」


「まあねー。いざとなったら頼れるやつが、普段であれじゃあだめだわ。ごちそうさま」


「ごちそうさまでした」


真弓が茶碗洗いを始めようとしていたのを見て、由梨は私がやりますよ、とスポンジを持った。


「えっ、いいのー? ありがとー」


真弓はそう言って笑うと、じゃあ洗濯してくるねーと洗面所へ向かっていった。


真弓さんは大変だなーと思いながら、由梨はせっせと茶碗を洗っていった。


それから二時間ほど経ち、真弓が自分の部屋に戻っていた由梨を呼んだ。


「由梨ちゃん、買物行かなーい?」


これで由梨が誘われたのは二度目になるが、由梨は相変わらずかたくなに断った。


「すみません。外は……」


「えー、やっぱり無理かぁ。でもここに来る前は外にいたからねー。行けると思うんだけど……」


「あれは生きるために仕方なくやったんです。怖いんですよ。男の人がいるので」


由梨は険しい表情で俯いた。


「そっかぁ。男か……何度も行ってれば徐々に慣れていくと思うんだけどねー」


「……」


申し訳ないと思いながらも、由梨は拒否を続けた。


「んー、じゃあまた慣れた頃に誘おっかなー」


真弓がそう言ってどこかに行こうとした時、由梨はふと気になることが頭に浮かび、それを真弓に質問することにした。


「真弓さん、旦那さんはいらっしゃるんですか?」


一日が終わっても帰ってこないということは、出張か離婚かのどちらかなのだろうか。そう想像した由梨は、どうしてもそのことを確かめたかったのだ。


「えっ、旦那? いないけどー?」


真弓があまりにもさらっとそう言ったので、由梨の頭の中のクエスチョンマークがどんどん増えていった。


「……え? 離婚したんですか?」


「いや、元々いないよー」


「え!? じゃあ……いや、何でもないです」


『じゃあ……羚弥君って一体……』


由梨の疑問はどんどん深まる一方だった。
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