金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
空港の隅で、私と土居くんは向かい合っていた。事情を説明して、別れてもらうためだ。
「――だいたいのことは、あいつらに聞いた」
“あいつら”というのはきっと、有紗と菜月ちゃんのことだろう。
二人のお陰で、土居くんは私がどんな答えを出したのかもう解っているみたいで、会話が途切れる度に深いため息をついていた。
「……私、苦しいことから逃れるために土居くんの優しさに甘えていただけなの……中途半端なことして、本当に申し訳ないと思ってる。土居くんは優しいし、頼りになるし、素敵な人だなって思うんだけど……でも、やっぱり付き合えない。先生が、好きだから……」
きっぱりと言い切った私を、土居くんは不機嫌そうにちらりと一瞥してこう言った。
「……あの写真、ばらまいてもいいのか?」
あの写真……
杉浦くんが偶然撮ったという私と先生の抱き合った瞬間の写真……
それを土居くんが持っているということをさっき先生に相談してみたら、彼は全く焦った素振りもなくこう言った。
『――大丈夫。土居くんは三枝さんを傷つけるようなことだけはしないはずです。きっとただの脅しだから、きみが気に病むことはないよ』
私が先生の言葉をそのまま伝えると、土居くんは舌打ちをして言った。
「……恩ちゃん、むかつく」
その苛立った様子は図星だからという風にしか見えなくて、私はほっと胸を撫で下ろした。
やっぱり、土居くんは曲がったことはしない人だ。
「次三枝を泣かせたら、その時は覚悟してろって言っとけ」
捨て台詞みたいにそう言ってクラスの列に戻る土居くんの背中に、私はごめんねとありがとうを呟いた。