金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「――今、きみたちは自分の未来について、たくさん思いを巡らせていると思います。

将来の夢や目標がはっきり見えて、それに向かって努力してる人もいるでしょうし、まだ何も決まらなくて焦っている人もいるでしょう。

僕が高校生の時は、後者でした。教師になったのは、成績が少しだけ周りよりもよくて、家族や友人に、先生が向いてるんじゃないかって乗せられて、自分の意志はないまま大学に行きました。


そこでたまたま知ったのが、今回僕が参加するボランティア活動でした。

ここにいるみんなのように、平等に教育が受けられない国がある……その国の子供たちに“学びたい”という強い意欲はあるのに、です。

そのボランティアの活動報告に載っていた写真の中で、彼らは目をキラキラさせてボランティアによる授業を受けていました。


僕は、ここに立ちたい……彼らに僕の知っていることを、少しでも多く伝えたい……漠然とですがそう思いました。

それから、今までぼんやりと過ごしていた学生生活が、急に色を持って、楽しいものになりました。これが夢を持つことなのだと、その時初めて気が付きました。


だけど、それに参加するにはいろいろな決まりがあって、それに僕自身にも色々なことが起こって、夢を叶えるチャンスを逃してきました。

それが、今ようやく叶いそうなんです……


応援してくれとは言いません。でもどうか、勝手な僕を許してください。できれば、きみたちとは笑顔で別れたいんです……」



しん、と静まり返る教室。


無言の中でやるせない空気が、私たちを圧迫する。



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