金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「――いやぁ、お待たせしてしまって、すみません」



岡澤は、なんでもないことのように軽い調子で言いながら部屋に入ってきた。

私と恩田先生は同時に立ち上がり、一応やつに頭を下げる。


顔を上げて、岡澤を見た。

白髪が少し増えただろうか。それ以外はあの頃のままで、私の胸はむかつきを覚える。



「まぁ、座ってください。それで何でしたかな、話というのは」



わかっているくせに、まだとぼけるつもりなのだろうか。

沸々と、私の怒りのボルテージが上がり始める。



「……電話でお話しした通りです。隣にいる、三枝千秋さんにあなたのしたことを謝って頂きたい。ただそれだけです」



毅然とした態度で、恩田先生が言ってくれた。

岡澤の視線が、ここへ来て初めて私の方へ向けられる。



「――久しぶりだな。元気そうじゃないか、三枝」



この状況にそぐわないそんな挨拶をされて、私は思わず岡澤をにらんだ。


本当に元気なら、私は今こんな場所に居ない……

それが、あんたにはわからないの?


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