イベリスの花言葉。
痛みは続く。いつまでも。


隕石が落下したみたいに、目の前が真っ白になった。
数回瞬きを繰り返した後あたしの視界に映ったのは見覚えの無い白い天井と、安堵した陸さんと社長の疲れたような笑顔だった。
社長は若干、やつれているかも知れない。
気のせいか。
あたしの腕に刺さった無残な天敵のチューブと、ツンと鼻につく独特の臭いでここが病院だとわかった。
窓の外に映る景色は相変わらず、汚い灰色だけど、あたしの心は少し、明るくなった気がした。
身体的・精神的疲労を重ねたあたしの体は医者を少し怖い顔にしたけれど、暫くの入院で事なきを得た。
ストレスの溜まりやすいあたしの体を気遣って、社長はあたしを一人部屋にしてくれた。


一ヶ月近く入院しているあたしの元に、毎日足蹴もなく通う人がいる。
陸だ。
毎日何かしらのお見舞い品を持ってきてくれる陸のおかげで窓や机の上は、花や菓子で賑やかになった。
さん付けが拒否され、お互いに呼び捨てで呼ぶようになってからは、よく社長にからかわれたが気にしなかった。
あたしたちは付き合っているわけではないし、やましい気持ちなんて無いからだ。
それに杏梨さんがいるではないか。
陸さんから陸に変わっても、社長の息子であることには変わりないし。
社長の息子であっても、一人の男であることにも勿論変わりない。
それを聞いた社長はなにやら不満そうだったが、気にしないようにした。


「元気そうだな?」
「昨日はピンピンしてたのに今日は死にそうとか、あたしそんな体のつくりしてないもん。」
2つ年上ということを感じさせない陸の態度に微笑する。
陸は花瓶に花を生ける。
「ミモザね?」
「ああ。綺麗だろ?」
黄色が艶やかなミモザを眺める。
窓から差し込む微かな光で花たちは綺麗に輝くものだ。
「本当、綺麗・・・。」
「いつごろ退院できるんだ?」
軽いキスを交わしながら、陸がたずねてくる。
イギリスでは挨拶と同じだから、特に気にしない。



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