* another sky *

ブツブツと頭の中で言いながら、コーナーを曲がりトイレへ向う。


――――――!!!


「うわっ!!」

「…っと!!」


今、一番近くにいたくないやつと、ぶつかった。


「…っ、すみません。」


顔を上げた瞬間、顔が歪む。


「あ、―――。」


向こうも、俺を確認して驚いていた。


――――。


――――。


いや、別に会話することもないし。

俺はそのままトイレに向おうと、歩き出した。


「…あの、…。」


まさか、話しかけられるとは思っていなかった。

背中越しに聞こえた声に、俺はゆっくりと振り返る。


「…僕、ですか??」


「ああ。ごめん。

…あの、―――。」


こういう時の、俺って凄いと思う。

本当の感情を表面には出さない。

相手に好感を与える笑顔を、瞬時に作り出せるから、ね。

本当は、女性ファン限定、なんだけど。


「何か…?」


柔らかな表情で口角を上げて、俺はあいつに近寄った。


「あ、いや…。」


口ごもりながら、あいつも俺に近付いてくる。

意を決したように、開いた口から発せられた言葉は、冗談なのか本気なのか、わからない。


「ちょっと、話せる…?」


―――――――。


「玲の、婚約者、だよね?」


「はい。そうですけど。」


嫌な顔はおくびにも出さない。

あくまでも、坦々と、口角を上げるだけ―――。
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