Enchante ~あなたに逢えてよかった~
1 都落ち
西へ向かう夜の高速道路は、走行車線と追い越し車線に
不規則に連なる大型車両が壁となって先の景色も状況も見えない。


まるで巨大な迷路だな、と助手席に座る澤田が
その様子をぼんやりと見つめていると隣から小さな舌打ちが聞こえた。


「結構混んでるね」
「そうだな」
「しまったなぁ」


ハンドルを握ったままの指先でトントンとそれを叩きながら
「はぁあ」と声に出してため息を付く三木に澤田は呆れ気味に声をかけた。


「だから新幹線で行くと言っただろう」
「だから!それはダメだって。天下の澤田駿を
一人で都落ちさせるわけにはいかないよ」
「都落ちって・・・」


言い得て妙だと澤田は苦笑した。
プロのテニスプレーヤーとして世界を転戦し始めてから7年。
勝てなくなって人知れず帰国したのはいいが
世間やマスコミから隠れる為に東京を離れようとしているのだから。


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