Enchante ~あなたに逢えてよかった~
6 蜜月
長い話を終えて絢子はふぅと小さく息を吐き
「驚いた?」 と悲しげに微笑んで見せた。
掴んだままでいた彼女の手首を引き寄せた澤田は
脱力した絢子の身体をそっと包み込むように抱きしめた。


「いや・・・驚くより納得した」

「納得?」

「貴女のような人がどうして一人でいるのかと不思議だったから」

「かいかぶり過ぎよ。結局・・・私は失敗したんだから」

「失敗じゃない。勇気がなくてはできない 『選択』 をしたんだ」

「そうね・・・。うん。ありがとう。でも・・・」


ん?と駿は絢子の瞳を覗き込み、なに?と吐息だけで問うた。


「貴方のような人がわざわざバツがついた女を選ぶことはないわ」

「幸せになる為についた『バツ』なら、誇らしいことだと俺は思う。
卑下することは無い」

「澤田くん・・・」

「貴女にとっての辛い過去も俺は愛しく思う。
それがあって今の絢子さんがあるのだから」

「・・・・・」

「貴女が好きだ。貴女が欲しい」


躊躇いも迷いもない自信に満ちた声に
絢子の心が震えた。三木の言う通りだと思った。
これほどの男に、これほどまで言われてどうして拒むことができようか。
どんなに頑なに心を閉ざしてみても、恋をする感情は
ままならないものなのだと悟った絢子はもう抗う事をしなかった。
澤田の背中に腕を回し強く抱きしめて
「私も」 と囁いた唇を彼のそれに重ねた。

< 76 / 112 >

この作品をシェア

pagetop