鬼姫の願い
しかし黙っているわけにはいかないと判断したのだろう。
意を決したようにその口を開いた。
「…義姫様が、梵天丸様のところに向かわれたらしいと…」
景綱の口から出た名前にひゅっと輝宗が息を呑む。
背中にはツーッと嫌な汗が伝った。
────義姫。
それは己の正妻であり、梵天丸の実母である女の名前。
本来ならば何も危惧することなどない。
しかし、彼女は違う。
梵天丸が天然痘を発症しその右目を蝕まれて以来、彼女は梵天丸を離れに追いやり優しさを与えることはなかったのだ。
全てがあの日から狂ってしまった。