一夜花
 ビールを入れるため冷蔵庫に向かった浩一は、背後から匂い立つ香りに動きを止めた。
 それは夏のたった一夜を彩る、あの花が放つ甘い芳香……。

(馬鹿な! まだ日も高いというのに)

部屋中に広がる夜風の気配。銀に輝くほどに純白な、高貴な薫香が彼を酔わせる。

 酔夢の心地で窓際の鉢に向けた浩一の視線は凍りついた。
 
 天頂近くについた大きな一蕾が、大きく震えながらカタチを変えてゆく……
 全体のシルエットが大きく、さらに大きく膨らみ、細くたおやかなパーツが4本、するりと伸びだす。

 香りは強く、より強く香り……その香気の強さに無為に手が伸びた。
 
 浩一の指先が触れたのは植物性のひんやりとした感触ではない。
 暖かく、しっとりと柔らかなオンナの頬だった。
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