一夜花
 間に合わせで着せた男物のジーパンとTシャツがダボつく。
その姿も姿も可愛らしくはあるが、下着すらつけていないことを考えると、連れて歩くには少々マニアックすぎる。

 浩一が『月』を連れて行ったのは、安さで有名な衣類量販店だった。

「今夜しかいない私のために、そんな、もったいない……」

 しり込みする彼女を引きずるようにして、浩一は自動ドアをくぐる。
正面に、真っ白なワンピースをつけたマネキンが見えた。

(白……か)

 月下美人である月の本来の色……清楚なAラインは彼女に良く似合うだろう。

 生地に触れれば、ザラリとした木綿の質感が指先に寂しい。

(安物だ)

 マオに強請られて行った呪文のように不可解な名前のブランドショップでは、木綿すらもするりとした触感だった。
値段だって桁一つ違う。

(せっかく、人間になったというのに……)
 
安物しか贈れない不甲斐なさに、浩一は唇をかんで振り向く。

「ねえ、月。これなんか……」

 彼が見たものは、清楚で高貴な『花』のイメージとは程遠い、嬉しそうにきらきらと輝いた笑顔の『女』だった。
彼女は吊るしになったイージードレスの、目にも鮮やかな色に心奪われている。

 あまりにも無邪気な様子に、ふっと浩一の表情が緩んだ。

「どれがいい?」

 優しい声に、月が少し困ったように顔を曇らせる。

「あ、いえ。いろんな色があるから、きれいだなって……それだけなんです」

「一緒に選ぼう。何色が好き?」

 すぐ隣に並んでくれる彼に、月はにっこりと微笑みかけた。
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