出口のない迷路
追う者と追われる者
 捕まりたくない。なんとか逃げ切らなくては!
 私、朝美はある者に追われていて、必死に逃げている。
 足がもつれて何度も転びそうになってしまう。
 辺りに誰も人はいない。自分の身は自分で守らないと!
 今いるところは路地裏。道が狭いので、追いにくいだろうと思っていた。

「いつまでそうして逃げている気だ?朝美」

 振り返るとそこには光輝がいた。彼は吸血鬼でいつも私を追いかける。
 高校を卒業して、無事に大学に入学したとたんに彼と出会い、目をつけられてしまった。
 はじめは吸血鬼の存在を否定していたが、実際に何度も吸われてしまい、その存在を否定しなくなっていった。
 どうしようかと考えている間に距離を縮められた。

「もう逃げ場はない。諦めろよ」

 彼の言うとおり、逃げ場がなくなっている。だからといってこのまま血を吸われるのは嫌!

「来ないで!」

 体が震えているが、睨みつけた。
 それを見て面白そうに笑うと、私を押し倒した。

「どこにする?いつもみたいに首筋にするか?それともたまには別のところがいいか?」
「なんでいつも狙うの?」
「他のやつらよりお前の血が好みだからだ。それともお前の友達の血を一滴残らず吸ってやろうか?」
「だめ!」

 なんてことを言い出すのよ!
 恐怖で顔が強張っているのがわかる。

「そんなことをしたら、ただじゃおかない!」
「へぇ、俺は何をされるんだろうな?」
「怖がっていないくせにそんなことを言わないで」
「確かに怖くなんかない。お前だろ?怖いのは」
「それは・・・・・・」
「こんな人気のないところで、男と女が二人きり。しかも相手は吸血鬼。お前からしたら、こんな最悪なことはないだろう」

 私は何も言うことができなかった。
 こういうことをされるのは何度もあるから尚更。
 このままだと、確実に吸われる!
 そう思っていると、すっと私の髪をすくい上げて、そのまま自分の鼻に近づけた。
 その行動に思わず目をそらすと、今度は手を握られていた。そのまま彼の唇に触れた。

「落ち着くな。お前といると」
「?」

 手を握られたまま、もう片方の手で頬を撫でられた。
 手の力が抜け、されるがままになっていた。

「!」

 突然手首に強い痛みが走った。血を吸われている!
 慌てて手を引っ込めようとしたが、私よりはるかに強い力を持つ彼に勝てるはずもなく、そのまま吸われ続けてしまった。

「誰も吸う許可なんかしていない!」
「そんなものいらない。俺が吸いたいときに吸うだけだ。まだ足りないな。どこがいいか自分で決めろよ」
 顔を背けると、顎を掴まれ、彼の方向に向けられた。
「このまま死にたくないだろう?ほら、どうする?」

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