それでも、愛していいですか。

美咲を玄関まで送り、彼女がサンダルを履くのを見下ろす。

サンダルを履き終わった美咲は、阿久津の身体の向こうに視線をやり、廊下にある扉を見つめた。

「あれ、まだ片付けてないの?」

その言葉が胸に突き刺さった阿久津は、即答できなかったが、視線を落としたまま「ああ」とだけ答えた。

「私、手伝うよ?」

そう言われた阿久津は大きく深呼吸をし。

「ちゃんと自分のタイミングで片付ける」

「いつまでもあのままじゃ、前に進めないよ」

美咲の強い視線を感じたが、阿久津は合わそうとはせず、

「……わかってる」

とうつむいたまま答えた。

美咲は玄関のドアノブを握り、阿久津に背を向けたまま「また来るね」とだけ言い残し、阿久津の部屋から出ていった。

玄関の戸がガチャンと締まると、阿久津は大きなため息をついた。

そして、美咲が見つめた扉の前を素通りし、リビングに戻った。





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