それでも、愛していいですか。
「では、始めます」
そう言うと、阿久津は細くて長い指を組んで話し始めた。
「私が新しく民法ゼミを担当する阿久津です。よろしくお願いします。今日は初日ですので、それぞれ自己紹介からお願いします。では、君から」
突然阿久津に指名され、心臓が一瞬飛び跳ねた。
「あ、はい。えっと、相沢奈緒です。よろしくお願いします」
「はい、次」
「沢井加菜です。よろしくお願いします」
「はい」
淡々と自己紹介が進んでいく。
阿久津は一人一人、顔と名前をチェックしている。
その目が、鋭い。
阿久津のかもし出す空気のせいで、研究室の中の空気はピンと張りつめていた。
それぞれ自己紹介が終わると、阿久津は、
「それぞれに研究テーマを決めておいてください。順番にレポートを発表していただきます。私の専門は財産法ですが、レポートについては家族法分野でも、どちらでもかまいません。各自、自分が調べたいものを調べてください」
と、淡々と説明した。