それでも、愛していいですか。
由美さんは、本当に愛されていたんだ。
奈緒の知らない、あまりに一生懸命な阿久津の姿を想像してみると、それは痛々しいほどに健気だった。
「ですが。ある日、俺は夜遅くまで大学で調べものに没頭していて、携帯の着信に気がつきませんでした。おもむろに携帯を見ると、とんでもない数の着信履歴が残っていて、青ざめました。それはもちろん、すべて由美からで、数分刻みに何十件と残っていたんです。俺は慌てて電話をかけました。でも……」
阿久津は静かに唇を噛みしめ、うなだれた。
目には、涙がたまっていた。
奈緒の手をぎゅっと強く握ると、奈緒はそれに答えるように、強く握り返した。
「俺は……間に合わなかった。あの時俺が電話に出ていたら、死なせずに済んだかもしれない。それに……」
言葉につまった阿久津の顔ををちらりと見ると、一筋の涙が阿久津の頬を伝っていた。
「由美が最期に、俺に『見捨てられた』と思って命を絶ったんだとしたら……」
阿久津はそこまで言って、奈緒の手をほどき、両手で顔を覆った。
肩が小刻みに震えている。