魔王様と私

「マキちゃんチューしよ」

「仕事」

「いやだ」

最初は上機嫌だったくせに、急に声が低くなるんだから、心臓に悪いったらありゃしない。

「なんで、そんなに仕事がいやなの」

てゆうか、仕事がいやなら何故魔王をやっている。

「マキちゃんとイチャイチャしたいんだもん」

こうやって、語尾にハートマークがついてるんじゃないかってくらい甘い声で耳元に囁かれると、いやでもゾクリとする。
魔王の声は中性的な声だが、たまに妙な色気があり、それがまた、私好みな声で、ほんっと困ったものだ。

魔王の息もかかって、心臓が壊れそうなくらいドキドキして、全身の血が顔に集まって、絶対今顔真っ赤。
きっと魔王が日本に生まれてたら、モデルでもアイドルでも声優でも、なんでもできただろう。

「マキちゃんってさ、耳、弱いよね」

「…っ!」

違うよ。
魔王の声に弱いんだよ。
そう言ったら、魔王はどんな反応するんだろう。

「マキちゃんのこと、もっともっと知りたいな」

耳に息を吹きかけられ、ビクッと肩が上がった。

私も、魔王のこと、もっと知りたい。

そう、言えたらいいのに。
言えたら、きっと、魔王はあの笑顔を見せてくれるだろう。

でも、もう追う恋はいやだと、昔の私がそう言うんだ。
女はいつでも追われる側にいなさいって、葵ちゃんも言ってたんだ。
だから、言わない。
絶対に言うものか。

でも、やっぱり言いたい。
魔王のことをもっと知りたい。

「そう。それよりも、仕事」

あぁ、この天邪鬼な口が憎い。

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