チェリとルイル
 見つけ、ちゃった。

 森が開け、彼女は立ちつくした。

 正直な話、魔法使いの家を見つけられないなら、その方がいいと思ったのだ。

 これまで、一度も近づいたことのない家。

 見知らぬ人の住むところ。

 父が、決して侵そうとしなかったその空間に立ち入るのは、相当の勇気が必要だった。

 手には、ウサギ。

 これをお土産にするとして。

 魔法使いに会ったら、まず何を言うべきか。

『あなた、村に悪さしてます?』

 あらゆる意味で、問題のある言葉に思える。

 真実がどうであれ、そんなことをいきなり言われたら、間違いなく怒られそうだ。

 うーん。

 空を見上げたり地面を見下ろしたり、チェリは長い間、家を視界に入れながら考えに耽っていた。

 何をどう考えても、不躾なことしか出てこないのだ。

 こうなったら。

 家が見つからなかったことにして、帰ろっかな。

 彼女が、回れ右をしそうになった瞬間。

 キィ。

 蝶つがいの鳴る音がして。

 扉が。

 開いた。

 うわっ! うわわわわっ!

 驚きのあまり、チェリの心臓は口から一瞬飛び出した。

 出てくる?

 彼女は、じーっとじーっと、開いた扉を見つめた。

 魔法使いが、そこから現れるのを待ったのだ。

 だが。

 扉は開け放たれたまま。

 そして。

 誰も出てこなかった。

 あれ?


 ※


 開いた扉を見つめたまま、チェリはまた考えていた。

 煙突からは煙が立ち上り、扉が開いた。

 ということは、中に誰かいることは間違いない。

 だが、その気配や姿を感じることは出来なかった。

 何かあったのだろうか。

 扉を開けても、出られないようなことが。

 もしかして、具合が悪くなって倒れたのではないだろうか。

 ばたりと転倒し、何とか長いものを使って扉を押し開けたはいいが、そこで力尽きたとか!?

 そ、それは一大事!

 チェリは、とっさに駆け出していた。

 さっきまで、不躾だの何だの考えていたのは、全部すっかり吹っ飛んでいる。

 急いで開いた扉に駆け寄り、中に飛び込──あれ?

 誰も、いなかった。

 かまどには火が入っていて、鍋ではお湯がわいていて、テーブルには、お茶が湯気を上げていた。

 どう見ても、人がさっきまでそこにいたように思える景色なのに、誰もいない。

「はぁ……勘違いか」

 人が倒れていなかったことにほっとしながら、一応きょろきょろとする。

 物陰にも、誰も倒れていないようだ。

 魔法使いは、想像できないような不思議な力を使えるという話だった。

 彼女では考えられない何かが、ここで起きているのだろう。

 分からないことを考えても、しょうがない。

 いないのであれば、様子を見ることも出来ないのだから帰るだけだ。

 勝手に入っちゃったし、お詫びに置いていこっと。

 チェリは、入口の分かりやすいところに、獲物のウサギを置く。

 さあて、帰ろうっと。

 彼女は、魔法使いの家の扉を閉め、外へ出たのだ。

 初めて家の中が覗けて、何となく浮かれていた。

 様子を見られなかったこと事が、なおのことチェリの心を軽くしたのだ。

 帰ったら。

 ルイルに怒られた。

「せっかく家を見つけたのに、何ウサギまで置いてのこのこ帰ってきてるのよ! おねえちゃんの、バカ!」

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