田中猿男の任務

平成に、流行ったプロレスラーの物真似だったが、木内は苦笑いを浮かべて顔をそらせた。



こういう時に木内も何かのギャグで返せば俺より仕事が回って来るのにと、残念に思った。



俺の勤務するコメディ庁書籍課は、課長以下八人しかいなかった。



世間では、超エリート集団だと言われていたし、ここに入るのは、若い綺麗な人妻に、貢いでもらうより大変だとも言われていた。



実際我々は、甘いラブストーリーを検閲するのが主な任務だったが、俺の場合は食べてみて甘さを感じる特殊能力を持っていたし、隣の同僚の、木内はパラパラと捲っただけで、その本がトイレから出てきて糞にまみれていても、甘い匂いで見事に検閲してみせた。



検閲を行い摘発もする為に我々は厳しい訓練を受けていた。



訓練生時代は匍匐前進をしながら、ギャグを百個笑いながら言うとか、就寝中に急に起こされてノーベルコメディ賞作家の作品を、もちろん笑いながら暗唱するとか数々の厳しい訓練を、受けた。



笑いこそ、国家再生の道が合言葉だった。

< 2 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop