甘え下手
それなのに私、さーちゃんを止めようとしてる。

なんで?


阿比留さんを取られたくないから?

私のものじゃないのに。


これじゃ、オモチャを全て手元に置いておきたい子どもと一緒だ。

そんな我が儘に気づいてしまったから、沙綾にやめるように言うことができなくなってしまった。


「さーちゃん、他に好きな人、いないの……?」

「えー、今はいないよ! 知ってんじゃん、完全フリーだって」

「そっか……」


よく分からない複雑な気分。

櫻井室長と何かあったんじゃないかって疑っていたんだから、今のセリフは私にとっては喜ばしいもののはずだった。


二人が私に隠れて付き合ってるっていう、最悪のシナリオは回避できる。

きっと今夜からはぐっすり眠れる。


失恋してなきゃ、阿比留さんとの約束もなかったことになる。

この一週間の悩みが消え去ってくれたのに、どうして。
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