甘え下手
櫻井室長に突然二の腕をつかまれて、瞬間、無意識にバッと腕をふり払ってしまった。


相手は参田さんじゃないのに。

大好きなはずの櫻井室長だというのに。


自分でもビックリしたけれど、櫻井室長も驚いた表情をしていた。


「あ……、すみませ……」

「いや、俺の方こそごめん。こんな夜中に男の部屋に来ちゃダメだろって注意喚起のつもりだったけど、脅かしすぎたな」


また。

自分は女だって自覚しろ発言。


そんな私の不満がそのまま顔に出ていたのか、櫻井室長はちょっと申し訳なさそうな顔をして、「座って」と促した。


「比奈子ちゃん、何かあった?」

「……」

「この間、鴨食べに行った日から、ちょっと様子おかしいなって思ってた」


私の渾身の誘惑が、櫻井室長には様子がおかしいとしか捉えられていなかったなんて、滑稽すぎてもう笑うしかない。

あまりにも脈がなさすぎるこの恋に、なんでこんなにすがってたんだろうとさえ思える。


「さーちゃんが……」
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