甘え下手
阿比留さん本人から聞く具体的な女性関係の話に、ズキリと胸が痛んで重くなった。

だけど阿比留さんがちゃんと話してくれてるんだと思うと、黙って最後まで聞こうと思った。


「言うこと聞いてやるのは優しいんじゃなくて、そいつに興味がないだけ」

「……」

「だから俺のこと好きになる女なんてバカだなとしか思わない」

「……」

「だからこんな俺がアンタに近づいたって、アンタが幸せになるなんて思わないけど」


ずぶずぶと沈んでいく気持ちと共に頭が垂れ下がっていた私は、阿比留さんの言葉が途切れたのことに気づいて思わず顔を上げた。

いつもの鋭い眼光はなくて、どこか不安げにも見える阿比留さんの切れ長の瞳と目が合う。


「だけどアンタが一人で泣いてると思ったら、放っておきたくなかった」

「え……」


胸の中に炎が灯った。

じんわりと温かくなる。


世界にひとりきりのような気持ちで泣いていたのはつい昨日のこと。

その気持ちを引きずったまま今日という日を過ごして、その日の終わりにこんなことを言われるなんて思わなかった。
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