甘え下手
「ふざけんなよってブチ切れるかな」

「……あ、そう」


恋愛マスターは自分の感情に正直なだけらしい。

私が阿比留さんにブチ切れる……か。


「想像つかない……」

「何がー?」


たぶん私達はそこまでくだけた関係じゃないってことだろうな。

当然といえば当然だけど。


「ううん、分かった。待つのはやめてお風呂に入ることにする」

「うんうん、そうするべきだよ。で、相手誰? もしかして」

「航太さんじゃないから」

「……あ、そうなんだぁ」


沙綾がさほど驚いた様子もなくしょんぼりして返事をしたから、私は不思議に思って訊いた。


「驚かないの?」

「あー、なんか航太さんならお姉ちゃん出張帰りに泊めたりしないだろうなあって思ってたから、もしかしたら違うのかなって」

「はは……」


さすが長年の付き合い。

私の長い片想いを知っていた沙綾だけに、私達の間にはしんみりとした空気が流れた。
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