甘え下手
阿比留さんは邸内に車を止めると、車から降りて助手席まで私を迎えに来てくれる。

さすがにドアは自分で開けたけれど。


車から降りただけで足元がフラつきそうだった。


「阿比留さん……」

「何?」

「緊張で倒れそうなんですけど……」

「分かった。じゃ、つかまってな」


胃が口から飛び出しそうな緊張具合を伝えたかったのに、阿比留さんは何をどう捉えたのか、私の肩を抱くと引きずるように歩きだした。


「あっ、阿比留さん……っ」

「何? もうちょい我慢して。家入ったら倒れていいから」

「違……っ。ちょ、待って……!」


いきなり肩なんか抱かれて現れた女を見て、ご家族の皆さんがなんて思うだろうか。

空気も読めずイチャイチャしてるって思われるに違いない……!


やーめーてー!

私の人生が崩壊するっ!


「待って下さいってば。大丈夫ですから離して……っ」
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