甘え下手
ニヤニヤ笑う仁が俺の嫉妬心を煽ろうとしているのは明らかだったから、たいして相手にもしないでおいた。

向こうには婚約者がいるみたいだし、俺達の付き合いはいたって順調だから問題視なんてしていない。


最初のデートこそ失敗した感はあったが、あれ以来週末は俺の部屋で過ごしたり、映画を見に行ったりと普通の恋人らしい付き合いをしている。


「大切にしてやれよ」

「ん?」

「比奈子ちゃん。真っすぐで疑うことを知らないだろ? 傷つけたりすんなよな」

「……仁に言われたくねーし」

「だよな! 俺誰だよって感じだよな!」


少しシリアスな空気になった照れ隠しなのか、仁は俺のツッコミに頭をかいて笑った。

だから俺も薄く笑って、煙草を灰皿に押しつける。


仁に言われたことは頭に響いた。


俺の嘘つきで捻くれた性格を知っている仁からの言葉だからこその重さがある。

彼女と俺はたまたま境遇が似ていただけで、なのに培われた性格は天と地ほども違う。


だから真っすぐで純粋なあの子を傷つけちゃいけないんだと強く思った。
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