甘え下手
恋する気持ちのその先に
「あ~あ、比奈子に先越されるなんてショックー」

「え? 秋菜って彼氏いるよね?」


お昼休みの食堂。

窓際の席を確保してヒソヒソ声で秋菜と話す。


そろそろ春の気配を感じる頃だけれど、屋上は風が強すぎる。

阿比留さんどこで煙草吸ってるんだろう。


「阿比留さんと! 順調なんでしょ!」

「う、うん」


小さくも鋭い声で刺すように言われて、思わず食べていた煮物をゴクリと飲み込む。

筑前煮はこの前阿比留さんに振る舞ってみたけれど、なかなか好評だった。


「いいなあ~。最近の比奈子からは幸せオーラが出てるもん。あっという間に寿退社しちゃいそう」

「ちょ、秋菜それ気が早すぎでしょ」

「そう~? 阿比留さんももうすぐ30でしょ? 私達だってもうすぐアラサー女子。全然早くなんてないわよ」


「阿比留さんからそういう話出ないの?」と訊かれ、思わず箸を口にしたまま考えこんでしまった。
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