甘え下手
ふーっと煙を吐き出すとあっという間に闇に溶け消えた。


見開かれた彼女の瞳。

色を失ったそれは人形のように生気を失い、彼女に与えた衝撃の大きさを物語っていた。


俺はたぶん最も言ってはいけない『タブー』を口にして、瞬間彼女からの信頼を失った。


大切で大事にしようとしていた宝物を、俺は自分の手で叩き割ったんだ。

瞬時にそれを悟った俺はあわてて「ごめん」と謝ったが、そんなの比奈子には何も響いてなかったと思う。


彼女はその時、泣かなかった。

すでに俺は涙を見せる対象から外れてしまったのかもしれない。


「いえ、私の方が……ごめんなさい……」


小さな声で謝る彼女にフォローしなきゃいけないことは分かっていたが、そんな余裕もなかった。

ただこのままにしたくないと思った俺は比奈子の小さな両肩をつかみ、「後で電話するから待ってて」と言い残すと、返事も待たずに百瀬家を飛び出した。


出るわけねーかな……。


それでも指先は勝手に比奈子へ向けて電話を発信している。
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