甘え下手
甘え下手
陽がすっかり落ちて薄暗がりを二人で宿まで歩く。

手はしっかり繋がれたままで、そういえば阿比留さんが歩くときに手を繋ぐなんて珍しいということに気づく。


阿比留さんも不安で心細かったんだと今になって思う。


玄関では女将さんがニコニコと「間に合ってよかったですねえ」と声をかけてくれたのが気恥ずかしかった。


「それにしてもまさか比奈子が一人でここまで来るとは思わなかった」


エレベーターで二人きりになった時に、阿比留さんが苦笑しながらつぶやいた。


「え、じゃあ旅行はどうするつもりだったんですか?」

「つーか旅行のことまで頭回らなかったし。比奈子に許してもらう前に超難関が二つもあったから」

「ハハ……」


その難関とは聞かなくても分かる、お兄ちゃんとさーちゃんのことだろう。

二人ともかなり言いたい放題言ったんじゃないかな。


阿比留さんが逃げ出しちゃわなくてよかった。


「なんかすみません……」

「全然。比奈子愛されてんなってうらやましかったぐらい」
< 428 / 443 >

この作品をシェア

pagetop