甘え下手
怒られてるのにその表情にまたキュンとする。

期待に高鳴る胸を押さえつつ、「もしかして連れて行ってくれるんですか……?」とこっそり聞いてみる。


「あれ、俺のオゴリ期待してる?」

「い、いえ! そんなわけでは!」


オゴってくれなくてもいいんです!

櫻井室長と一緒に行ければそれだけで!!


そう鼻息を荒くして告げたいのが本心だけれど、まさか社内で勤務時間中に告白めいたことを口にできるわけもない。


「場所を教えていただければ十分です……」


ああ、私の馬鹿。甘え下手。

今までこうやってどれほどのチャンスを逃してきたことか。


「ふ。まあ百瀬には世話になってるし、いいよ。場所も分かりにくいし、案内がてら連れて行こうか」

「ほ、本当ですか……!?」


だけど何十回かに一回は、こんな私のこと、神様が見ていてくれるらしい。

頭の中ではすでに小人サイズの自分達がたくさん、阿波踊りをしながら、くるくると回っていたけれど、現実の私は胸に手を当てて必死で平静を装っていた。
< 47 / 443 >

この作品をシェア

pagetop