嘘つきなキミ

秘事



一方、楓はケンよりも先にアパートに着いてひと息ついていた。

冷蔵庫から水を取り出し、グラスに開ける。

今日起こったこと―――…リュウに絡まれたこと、ケンがそれに対して過剰な反応をしたこと。
そしてケンの心の中のこと。

それに感化されて、自分のことも考えてしまう。

ぼんやりと、決して明るい気持ちではなかったその時、脱いだ上着からバイブの音が聞こえてグラスを置いた。

携帯を取り出し、見てみると、そこには【圭輔】と表示されていて気が緩む。

完全に気を抜いた状態で、携帯を耳にあて声を出した。


「もしもし」


こんな遅い時間なのに、どうしたのか。
不思議そうな声色で楓が言うと、少しの間のあと受話器から反応があった。


『…へぇ。元気そうだ』
「―――!」


その声は圭輔ではない。
楓の携帯の持つ手は汗ばんで、一瞬で全身から血の気が引く。

先程喉を潤したばかりなのに、喉が張り付くように乾いていた。


『全然連絡も寄越さないし…もしかして、と思ったら案の定。コイツとは連絡とってんだと思ってよ〜』


その耳元から聞こえる不快な声は、楓の記憶と同じで酒に酔った話し方。
恐らくは、事実、酔っているのだろう。


『おい、なんか喋れよ』


陽気にそういう男の声に、楓は手を震わせる。
そして、震えるのは手だけでなく声もだった。


「っ…何も話すことなんか、ないっ…」


掠れた声で、辛うじてそう伝えると、こちらのことはお構いなしで電話の相手は話を続ける。


『おいおい、怒ってんのか〜? 仲直りしよう〜なぁ?』
「…もう、関わりたくないっ」
『あぁ〜? んな事言ったってムリだろ? 俺とお前は―――』


そこまで聞いて、楓は一方的に通話を切った。

心臓が、この上ない程騒ぎ立てている。
心なしか息も上がって…瞬きも出来ずに両手の中にある携帯を見下ろしていた。

すると、再びその手の中のものが振動を始める。


< 66 / 225 >

この作品をシェア

pagetop