【番外編】惑溺 SS集
 
「ああ、嫌な客がなかなか帰らなくて」

リョウが仕事の愚痴を言うなんて珍しい。
よっぽどたちの悪いお客さんに絡まれたりでもしたのかな。

心配して、膝の上にあった本にしおりを挟み立ちあがろうとすると、ふらりとキッチンをのぞいたリョウがくんくんと鼻を動かした。

「なんか、いい匂いがする」

「あ、朝ごはんに食べるかなと思ってスープ作っておいたの。
今ちょっと食べてみる?」

ぱたぱたとキッチンまで歩き、覗き込むリョウにお鍋の蓋を取って見せる。

「なんのスープ?」

「トマトとズッキーニといんげん豆」

「変なの」

「ひどい。
ショートパスタ入れて朝ごはんにしようと思ってたのに」

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