社長の旦那と恋い焦がれの妻(わたし)



扉の前から拓斗さんが瞳子に話しかけている声が聞こえてきた。


瞳子と二人っきりの時、拓斗さんはどんな会話をしてるんだろう?と思い扉の前で佇んでいる私の耳に届いてきたのは――





「ママって言ってみろ」

「ぱー」

「ママだ。ママ」





拓斗さんが瞳子にママと教えていた。





「瞳子は今日なんの日か知ってるか?」

「あ」

「母の日っていうんだ。瞳子がママって呼べばママは喜ぶ」





今日たくさん泣いてしまったはずなのに、また頬に涙が伝う。


リビングに置いてある棚の上には朝すぐに拓斗さんがプレゼントしてくれたカーネーション。


だから今日は母の日だって事は分かっていた。


それでも、正直言ってカーネーションよりもその言葉が嬉しい。



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