Music In Us(TABOO)


舞台袖から客席を覗くと、満員だった。うちの劇団初の、立ち見客までいる。

「今夜は、ちゃんと俺と交ざり合って下さい」

背後から劇団の後輩である神(ジン)くんがそう言った。

私は振り返って、神くんのつるっとした肌の清潔感と、切れ長の目の色気と、上がった口角の少年ぽさを確かめる。
それらを武器に戦隊モノのヒーロー役を掴んだ彼は、今日の公演を最後にこの劇団を去る。


「神くん、やめて、紛らわしい言い方」

俺と交ざり合う、まるでセックスのことみたい。団員が聞いたらきっとそう誤解する。
でもそうじゃない。それが解るのは私たち二人だけ。

私はお腹にすーっと息を吸い込んで長身の神くんをぐっと見上げた。

「神くん、私、開くよ」


はっと、神くんが息を漏らす。私のこの決意が、今夜の舞台にもたらすものを予感して。



この劇団に入って6年、しかし私には「合う」相手がいなかった。

神くんが入団してきたのは1年前。
彼の歌声に初めて自分のそれを重ねたとき、
私の歌声は音波になって大気圏を突き抜けた。

それはまさにそんな感覚だった。


それからは夢中だった、二人目が合えば歌っていた。互いの歌に溺れた。

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