BirthControl―女達の戦い―
白く色の無い顔は、自分の知っている遥香よりも大人っぽく見える。


それが……自分の知らない遥香の五年間の軌跡なんだと譲に教えてくれていた。


「遥香?お父さんだよ?
何、こんなところで寝てるんだ?

家に帰ろう?

母さんも待ってるぞ?

ほら、遥香……

冗談はよしなさい!」


そう言いながら遥香の腕を引っ張り、力付くで立たせようとする。


けれど遥香の体は切れた凧のように、ぐにゃりと曲がり夏木の腕に抱き止められた。


「大臣、遥香さんはもう……」


「大臣なんかじゃない!
もう大臣じゃないんだ!
遥香を迎えに来たのに、なんで邪魔をするんだ!」


譲は今までにないくらい取り乱し、遥香の亡骸を無理矢理自分の方へと抱き寄せた。


空っぽになってしまった娘の体は、もう譲を呼ぶことも触れてくることもないのだと。


分かりたくもない現実が譲を襲った。


娘を失った悲しみは譲の心にポッカリと穴を開け、自分のした罪をまざまざと突き付ける。


体が……ガクガクと震え出した。


泣きたいのだと頭ではわかっていた。


けれど体はそれを拒否する。


遥香をこんな目に合わせたのが自分であると認めてしまった今、簡単に泣くことを拒んでいるのだと思った。


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