西澤さんと文子さん

そして、文子が西澤のすぐ近くに到着した時、父は文子の手を離しながらニコッと微笑んで「行っておいで。」と文子につぶやいた。そして西澤の眼を見つめる。それは、西澤に“文子のことを頼む”と眼で訴えているかのように・・・。
そして、父はまた微笑むと自分の席に座った。


西澤は、そっと文子の手をとると、二人でゆっくりと祭壇まで歩いていく。歩いている時間はすごく短いのに、西澤と文子にとって少し長く感じていた。その間、二人の心の中では、走馬灯のように今までの思い出が振り返られていた・・・。そして、祭壇にたどり着くと神父が二人に微笑むと、様々な質問をするように誓いを読み上げていく・・・。


「それでは、誓いのキスを。」


その言葉を合図に、西澤と文子は向かい合う。西澤は文子のベールを静かに上げる。そして顔を見ると、いつもの雰囲気とは違う、とてもきれいで、とても大人っぽい文子が顔を紅くして西澤を見つめていた・・・

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