Over Line~君と出会うために
移動した先の、ホテルの部屋だ。シャワーを浴びてから、ベッドに転がって天井をぼんやりと見上げる。まだ、今日のライブでの余韻が抜け切らない身体は、シャワーの熱とは違う熱さで火照っている気がした。
貴樹は、ライブという空間が大好きだった。今でこそホールクラスの大きな会場でしか公演できないが、最初は小さなライブハウスから始まった。その時から、自分が歌っているその場でダイレクトに反応が返って来る瞬間は、何よりも興奮していた。あの瞬間のために、自分は歌っている。そんな気がするほどに。
もう少し落ち着いてから、彩にメールを書こう。そう思いながら、ベッドサイドのテーブルに放り出してあった携帯を取り上げる。
受信フォルダを開くと、彩からのメールがある。夕方に届いていたもので、ステージが始まる前に既に内容は読んでいたけれど、またそれを開いて読んでしまう。
彩からのメールだというだけで、何となく嬉しいのだ。たとえ、その内容が他愛のないもので、今日の献立などがずらずら書いてあるものであったとしても、だ。
彩は、料理も好きらしい。食べたいなーとメールをしたら、今度食べさせてくれると約束してくれた。その日が待ち遠しくてならないと更にメールをしたら、今日の献立はこれです、なんて返って来たのだ。
彩からのメールが、当たり前に来ること。それが、とても幸せで、嬉しかった。
結局、彩には、本当のことを言えないままだった。貴樹がしばらく留守にすると言うと、彩は不思議そうな顔をしていた。仕事で地方に行くのだとだけ言ってみたが、それ以上突っ込んで聞いてこなかった。突っ込まれたとしても、その先の言い訳を用意していないから、しどろもどろになってしまったかもしれないけれど。たぶん、その場はそれで納得したのだろう。
だが、そんな理由もない留守が長く続けば、不審に思われることは間違いない。この状況は、半年続くのだ。かと言って、本当のことを告げる勇気も、まだ持てずにいた。
それはまだ、少しだけ怖くて覗くことのできない未知の領域だった。
貴樹は、ライブという空間が大好きだった。今でこそホールクラスの大きな会場でしか公演できないが、最初は小さなライブハウスから始まった。その時から、自分が歌っているその場でダイレクトに反応が返って来る瞬間は、何よりも興奮していた。あの瞬間のために、自分は歌っている。そんな気がするほどに。
もう少し落ち着いてから、彩にメールを書こう。そう思いながら、ベッドサイドのテーブルに放り出してあった携帯を取り上げる。
受信フォルダを開くと、彩からのメールがある。夕方に届いていたもので、ステージが始まる前に既に内容は読んでいたけれど、またそれを開いて読んでしまう。
彩からのメールだというだけで、何となく嬉しいのだ。たとえ、その内容が他愛のないもので、今日の献立などがずらずら書いてあるものであったとしても、だ。
彩は、料理も好きらしい。食べたいなーとメールをしたら、今度食べさせてくれると約束してくれた。その日が待ち遠しくてならないと更にメールをしたら、今日の献立はこれです、なんて返って来たのだ。
彩からのメールが、当たり前に来ること。それが、とても幸せで、嬉しかった。
結局、彩には、本当のことを言えないままだった。貴樹がしばらく留守にすると言うと、彩は不思議そうな顔をしていた。仕事で地方に行くのだとだけ言ってみたが、それ以上突っ込んで聞いてこなかった。突っ込まれたとしても、その先の言い訳を用意していないから、しどろもどろになってしまったかもしれないけれど。たぶん、その場はそれで納得したのだろう。
だが、そんな理由もない留守が長く続けば、不審に思われることは間違いない。この状況は、半年続くのだ。かと言って、本当のことを告げる勇気も、まだ持てずにいた。
それはまだ、少しだけ怖くて覗くことのできない未知の領域だった。