Over Line~君と出会うために
 聞こえてくる声に、少しきつさが混じる。その声音にどきりとして、貴樹は手に持った携帯を握り締めた。
「仕事だって貴樹は言うけど、私には、その内容を少しも教えてくれない。貴樹が何をしているのか、私は何も知らない。別に、無理に聞こうとは思っていないし、言いたくないのならそれでいいと思っていた。でも、今の状況は明らかにおかしいよね。全部を言って欲しいとは言わない。言えないことがあるのは理解できる。でも、言えることだってあるでしょう? 納期が近いとか、決算期だとか、誰かの失敗をフォローしなきゃならないとか! 少しでもいいから話して欲しいと思うのは、私の我儘なの!?」
 何も、言い返せなかった。
 彩の言っていることは正しすぎて、自分の情けなさに気づいて、泣きたいくらいの自己嫌悪に襲われた。
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