魅せられて


数秒コールした電話口に
岡田の応答があった


『はい』


困惑な声ではなく
何気ない言葉が
篭った防音で包まれた
音響と共に聞こえてくる


何処かの店で
飲んでいる最中なのだろう


場違いな電話を
掛けてしまったと気付いた私は
言葉を失い掛け
息を飲んでしまった


一度しか逢っていない
私の存在など
覚えているはずもない


「間違えました」と
切ってしまおうか
迷った末に


無謀な賭けをしていた


”覚えてなくても
 いいじゃない

 それだけの事よ”


「岡田さん?」


見覚えのない
電話番号が表示される岡田へ
疑惑だけを残し
切ってしまう事が出来ず
振り絞って出した言葉だった


『…どちら様かな?』


優しい対応
紳士的な岡田の声に
心が蕩けてしまいそう


「私 BARで名刺を頂いた
 ”響子”です
 覚えてます?」


数秒の沈黙


『覚えてますよ
 お久しぶりですね』


その言葉だけで
十分だった気がする

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