この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止


マサコさんは、プクプクの手でハイボールの入ったグラスを持つとソレを一気に飲み干し、私をチラリと見る。


「……確かに、鳳来物産の社長さんはお得意さんだったわ。でもね~ここ数年、お店に来てないのよ。社長さんは、凄くいい人よ。あんな大会社のトップなのに腰は低いし優しいし……だけど……」

「だけど?」


マサコさんは少し口ごもり、何か言いにくそうにキャサリンママに視線を移す。


「キャサリンにも言ったんだけど、彼、再婚してから変わっちゃって……」

「変わったんですか?」

「そう、新しい奥さんを一度お店に連れて来たことがあったんだけど、これがまた、最悪な女でね。高飛車でいけすかない我がままな女。あんないい人が、どうしてあんな女と結婚したのか、未だに謎だわね」


銀も社長の奥さんのこと嫌いみたいだし、相当、酷い女性なんだ。なんだか余計、気分がどんよりしてきた。


「まぁ、なんだわね。社長を説得したいなら、その奥さんに気に入られることが一番なんじゃない? 噂じゃさぁ奥さんに骨抜きにされて、言いなりみたいだから」


マサコさんたら、簡単に言ってくれる。それが何より難しいのに……


益々、不安になり、イヴの日に銀の家族に会うことが億劫になってきた。



*****


――12月23日


不安が消えないまま、とうとうイヴの前日になっちゃった。


顧客への年末の挨拶まわりから帰った銀に、部長室に呼ばれる。


「失礼します」

「よう、そこ座れ」と久しぶりに穏やかな表情の銀。


どうしたんだろう? 今日の銀は、なんか機嫌がいい。


「随分、嬉しそうだけど、いいことでもあった?」

「まあな」


ソファーに腰掛けた私に、ピースサインなんかしてくる。悩み過ぎておかしくなっちゃったとか?


「銀、ホントに大丈夫?」

「何のことだ? それより、ミーメ……」

「んっ?」

「今日からお前は"沢村美衣芽"だ」

「は、はぁーっ?」


それって、もしかして……


「さっき婚姻届を提出してきた。ハナコの認知も済ませてきたから、本日より、俺たちは家族だ」


ドッカーン!!


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