月宮天子―がっくうてんし―
「愛ちゃん、ちょっと愛子! もうすぐ夏休みは終わりなのよ。あなたちゃんと受験勉強はしたの? 春に泣くのはあなたなのよ、わかってるの?」


相変わらず母は口うるさい。

一連の騒動で証明されたことは、化け物が出てもヤッパリ受験はなくならないということくらいか――。

そう思うと、愛子は深いため息をついた。


連続猟奇殺人犯に誘拐された! と思われた愛子だったが……。海と一緒に帰ったことで大目玉を喰らった。

海もコンコンと説教され、結果、校舎屋上での一件も父にばれてしまったのだ。


「君と女の子のよくない噂を、耳にしたこともあったが。まさかうちの娘……それも下の愛子とそんなことになるとは」


父は怒って、海は西園家出入り禁止になってしまう。

でも、どうせ近くに住むんだろうし、親なんか無視して、海の家に遊びに行くもんね。と、愛子は簡単に考えていた。


ところがっ!


「朔夜さんたちと一緒に、月島に行こうと思う」


海はそう言って、蓮が動けるようになるとすぐ、ふたりと一緒に東京からいなくなってしまったのだ。

不幸中の幸いというか、蓮の傷はそう酷いものではなかった。四つの宝玉も、大神島まで四匹の獣人を送り届け、海の下に戻ってきた。

四つが揃ったとき、五個目の『月光玉』は海の胸から飛び出した。

五個の宝玉を水晶のケースに納めて、海は朔夜に返したのである。


「兄上様……ありがとうございました。そして……ごめんなさい」


それを聞いたとき、海はこれまでに見たことがないくらい、幸せそうに笑ったのだった。


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